調達先としてのインドネシア

前回は日本企業の海外調達の現状をお伝えしました。今回は海外調達のなかでも私が事業展開しているインドネシアから日本への輸出について、過去のインドネシアの主力品目が相次いで輸出禁止になった事例を交えながらインドネシア政府の動きを中心に、調達先としてのインドネシアを見てみたいと思います。

◯鉱石の輸出禁止拡大と今後の見通し

 インドネシア政府は2020年1月にニッケル鉱石の輸出禁止措置に始まり、2023年6月からはボーキサイト鉱石の輸出も禁止しました。さらに未加工の銅鉱石の輸出も禁止する方針があるとされています。

 禁輸措置の背景には産業構造の高度化があります。天然資源が豊富なインドネシアは輸出に占める一次産品の比率が高く、ASEAN5(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)の中で唯一50%を超えています。インドネシア政府は、これからは世界の資源需要の変動に影響を受けやすい現状の資源依存型の経済構造から高付加価値分野で稼ぐ経済構造へ転換することを目指しており、鉱石の輸出禁止だけでなく精製や製錬等のプロセスを国内で行うことを義務付けることで、付加価値を高めた金属加工事業にまで発展させようとしています。

 しかし、こうした禁輸政策に対して国際社会が反発しています。ニッケルの禁輸措置を巡るEUとの係争では、WTO小委員会が2022年11月にインドネシアの協定違反を認めました。インドネシアは上級委員会へ上訴していますが、上級委員会が協定違反との結論を出せば禁輸措置の修正を求められる恐れがあります。過去には他の鉱石の禁輸政策が失敗に終わった経緯があり、禁輸拡大が拡大するかどうかは不透明です。

 ◯2008年7月に発効した日インドネシアEPA(JIEPA)の改正

日インドネシアEPAの改正交渉は2023年12月に大筋合意に至り、2024年8月に両国間で改正議定書に署名されました。改正EPA発効後は新たな電子商取引章が設けられ、2023年6月から原産地証明書(CO)の電子データ交換の運用が開始されでいます。これまでは発給機関の窓口においてCOの紙原本を受け取り、輸入者に紙原本を郵送する必要がありましたが、輸出国におけるCO発給機関と輸入国税関との間でCOの電子データが直接交換されることにより、COの真正性の確保、リードタイムの短縮につながると期待されています。

◯2024年環太平洋連携協定(CPTPP)に加盟申請

 インドネシア政府は2024年10月26日までに、環太平洋連携協定(CPTPP)への加盟を申請しました。海外からの直接投資が増加し、国内総生産(GDP)が約16億ドル(約2300億円)押し上げられる見込みだと報道されています。

 アイルランガ・ハルタルト経済担当調整相は加入12カ国(日本、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシア、チリ、ブルネイ、英国)との貿易が促進されることにより、インドネシアの輸出が19%増加を見込み「自国製品の競争力を高め、輸出増を狙う」と述べています。グローバル・トレード・アトラスによると、2023年のインドネシアとCPTPP12カ国との輸出額と輸入額を合計した貿易総額は18兆811億円で、インドネシアの貿易総額の26.8%を占めています。

 過去10年、インドネシアはASEAN諸国の中でも特に中国との結びつきを強めている国と言えます。2023年時点で中国がインドネシアの輸出入に占める比率は輸出25%、輸入28%まで上昇している一方で、日米欧は合計しても輸出25%、輸入20%にとどまっている状況のなかで、インドネシアのTPP加盟は日本としても朗報だと言えるでしょう。

 インドネシアのCPTPP加盟が実現すれば、ルールに基づく国際貿易秩序の重要性を世界的に再認識させるきっかけになり、地政学的緊張が高まる中で世界貿易機関(WTO)を中心とする貿易ルールが軽視される傾向が改善されることを期待したいと思います。

◯プラボウォ新大統領の積極外交で貿易額も上がる?

 プラボウォ大統領は10月20日の就任式直前に73歳となり、同国史上最高齢で任期5年の政権の座に就きました。今年2月の大統領選で60%近い票を獲得して3月に当選が発表されたのち、中国、日本、マレーシアを相次ぎ訪問、続いてフランス、トルコ、ロシアなど、そしてラオスやカンボジアなど東南アジア諸国を訪問して各国首脳と会談してきました。

 就任前から積極外交を展開する一方で、大統領選で打ち出した数々の公約を守れるのか就任直後から疑問視されています。 選挙時に掲げた公約には高いハードルが立ちはだかっているからです。特に、国内総生産(GDP)成長率を2029年までに7~8%まで引き上げると公約で示していますが、直近3年は5%台にとどまっています。国際通貨基金(IMF)も成長率は2029年まで5.1%にとどまるとの見通しを示しています。

インドネシアは環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加入表明や既に締結し発効している日インドネシアEPA(JIEPA)、既に加盟しているインド太平洋経済枠組み(IPEF)など、国際的なスタンダードである枠組みへの参加を通じたビジネス環境の改善を積極的に推し進めています。日本企業にとって安心して取引ができる仕組みが出来上がりつつあるインドネシアからの調達は、業種や品目にもよりますが調達における事業継続計画(BCP)の選択肢として最右翼と言えるのではないでしょうか。

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