かつてインドネシアは安価なコーヒーを多く栽培していた国でしたが、近年では品質の高いスペシャルティコーヒーとして楽しめるようになってきました。多くの島からなるインドネシアでは、島ごとに個性のあるコーヒーを産出していてさまざまな銘柄が存在し、なかには非常に高価な銘柄もあります。
そこで今回は、栽培地や品種の違いなどによって味わいの幅が広いインドネシア産コーヒーについて、豆の格付け方法と種類や銘柄、等級などをご紹介したいと思います。
◯インドネシアコーヒー豆の格付け方法
コーヒー豆の格付けは、19世紀にブラジル産のコーヒーに格付けが行われるようになったことが始まりとされています。続いて他の生産国でも豆の格付けをするようになっていきました。コーヒー豆の格付けは世界的に統一されているものではなく、各生産国ごとに行われています。基準が国によって異なることもありますが、主な基準としては「生産地の標高」と「欠点豆の数」「粒の大きさ」などによって決定されています。生産地や品種と同様に、コーヒー豆を知るうえでの重要な情報となる格付けは、バイヤーや消費者がそのコーヒー豆の品質や価値をおおよそ知ることができる重要な指標となっています。
基準の中でも「生産地の標高」が基準になっていることを不思議に感じるかもしれませんが、栽培されている地域の標高が高ければ高いほど寒暖差が生まれ、コーヒーの実は引き締まり上質なコーヒーが生まれるのです。例えばグアテマラではコーヒー豆を栽培している山の標高が格付けの基準となっており、標高約1,300m以上がSHB(ストリクトリー・ハード・ビーン)という最上位の評価になっています。メキシコではさらに標高の高い約1,700m以上でSHG(ストリクトリー・ハイ・グロウン)という最上位の評価になっています。
コーヒー豆の大きさで格付けしているのはコロンビアで、「スクリーンサイズ17」(6.8mm)以上でスプレモという最上位の評価になります。一方で格付けが低い豆は基本的に国内消費に回されます。
また、欠点豆が少しでもあるとコーヒーの味が損なわれるので、無作為抽出した規定量のコーヒー豆をチェックして何粒欠点豆があるかで格付けが行われます。エチオピアでは欠点豆などの欠点数で格付けされています。他にもブラジルでは欠点数と豆のサイズ、味の2項目で格付けをしています。有名なハワイのコナの場合も、豆の大きさと欠点豆の数を合わせて格付けしています。最上位はスクリーンサイズが19以上で欠点数が8点以下のエクストラ・ファンシーとなります。
さてインドネシアの場合ですが、コーヒー豆の格付けは基準料300g中の欠点豆の量で決定されます。具体的には、加工や運搬の過程で割れてしまった「欠豆」や「潰れ豆」、えぐみの原因となる「生育異常豆」、嫌な風味をもたらす「カビ豆」や「虫食い豆」などが該当します。
等級はアルファベットの「G(グレード)」と数字の組み合わせで表され、数字が大きくなればなるほど格付けとしては低くなるのがポイントです。もっとも質の高い格付けの等級は「G1」で、300g中に11個まで欠点豆が許されています。
・G1:11点以下 (G1の中でも特に良い品質のものは「SPG1」に分類されます)
・G2:12~25点
・G3:26~44点
・G4:45~80点
・G5:81~150点
・G6:151~225点
欠点数に応じて評価されてはいますが、欠点が全くないというのはあり得ないとされています。
◯インドネシアコーヒー豆の種類・銘柄・特徴
インドネシアで栽培されているコーヒー豆の種類・銘柄のうち代表的な7つについて、それぞれの銘柄・栽培地・品種・特徴をまとめてみました。
(1)「ジャワコーヒー」はジャワ島で作られているロブスタ種のコーヒー豆です。生産地は、ジャワ島のなかでも特に中部ジャワと東ジャワで栽培が盛んに行われています。19世紀に東南アジアで流行した「コーヒーさび病」の影響で壊滅的な被害を受けたため、その後はコーヒーさび病に耐性のあるロブスタ種へと栽培品種を転換し、生産量を増やしていきました。そのため、現在ではジャワ島で生産されているコーヒーの約9割がロブスタ種になっています。しかし、生産量は少ないもののアラビカ種の栽培も行われているため、ロブスタ種と区別して「ジャワ・アラビカ」と呼ばれます。ジャワコーヒーは酸味が少なく、やや強い苦みとコクが特徴です。
(2)「マンデリン」はスマトラ島で生産されるアラビカ種です。スマトラ島のなかでも北スマトラ州とアチェ州で栽培されています。マンデリンは地域によってブランドが確立されていて、「アチェ」「リントンマンデリン」「マンデリン・トバコ」などあります。芳醇なコクと苦みが特徴です。
(3)「ガヨ・マウンテン」はスマトラ島のアチェ州ガヨ高地で生産されるアラビカ種です。生産量自体が少ないだけでなく、アチェ州はインドネシアで唯一シャリアと呼ばれるイスラム法が施行されているイスラムの戒律が重んじられている地域で、近隣のインドネシア人ですらなかなか近寄ることができない上に、生産拠点であるガヨ地区は輸送手段も人力に頼っていることから、希少なコーヒーとして知られています。香りと甘味が感じられ、コクもしっかりありつつ、まろやかな風味が特徴です。
(4)「バリ・アラビカ」 はバリ島のバトゥール山とアグン山で生産されるアラビカ種で、無農薬栽培を行っており生産量が少なく希少性の高いコーヒーです。インドネシアでスタンダードなスマトラ式ではなく、天日干しと水洗式の工程で作られる非常に珍しいウオッシュドコーヒーです。香り高く、苦みと甘味があり、酸味が少ないのが特徴です。
(5)「トラジャコーヒー」はスラウェシ島タナ・トラジャ地方で生産されるアラビカ種です。かつてオランダ王室御用達に指定されるほど高い評価を受けていましたが、第二次世界大戦後オランダが撤退したことにより栽培が途絶えてしまいました。1978年日本企業がトラジャコーヒーの復活を支援し、コーヒー生産が復活しました。コクと苦み、柑橘系の酸味と蜜のような甘みのバランスがよくまろやかな味わいが特徴です。
(6)「キンタマーニコーヒー」はバリ島キンタマーニ高原で生産されるアラビカ種です。標高1,500mのキンタマーニ高原はコーヒー豆の生育に適した火山灰地です。バリ州政府の農業指導のもと、農薬を使用しない栽培方法が実施され手摘みによって丁寧に収穫が行われています。ほろ苦さとコクのバランスがよく、ほのかな柑橘系の香りが特徴です。
(7)「ジャコウネココーヒー(コピ・ルアク)」はアラビカ種、ロブスタ種に関わらずジャコウネコの排せつ物の中の未消化のコーヒー豆からできるコーヒーです。インドネシア語でコピはコーヒー、ルアクはジャコウネコという意味で、日本語でジャコウネココーヒーと言われます。コーヒーチェリーを食したジャコウネコ(ヒョウ科の小型哺乳類)の排泄物の中から収集されたコーヒー豆を洗浄、乾燥、焙煎して作られます。他のコーヒーにはない独特な味と香りだそうで、世界で最も高価なコーヒーと言われています。日本では1杯3,000~5,000円が相場のようです。
インドネシアコーヒーは島ごとに個性のある味わいがあります。今回は簡単な紹介になってしまいましたので、また別の機会にそれぞれの詳しい解説をしたいと思います。
コメント