インドネシア産カカオについて

チョコレートの原料となるカカオの生産地として思い浮かぶのはアフリカの国々ではないでしょうか。カカオが育つ条件は「カカオベルト」と呼ばれる、赤道の北緯南緯20度以内、年間平均気温が27度以上、年間降水量がおよそ1,500〜2,000mlの高温多湿の限られた場所で育ちます。さらには、直射日光にさらされない程よい日陰の環境がカカオの生育に適しているとされています。実はインドネシアはコートジボワール、ガーナに続く世界第3位のカカオ生産国なのです。この事実が日本で知られていない理由の一つに品質の問題がありました。しかし近年は品質が向上し、日本にも輸入されるようになっています。今回はインドネシアのカカオについてご紹介します。

◯カカオの生産状況

 インドネシア語ではカカオを「Coklat(チョクラート)」と言います。主な産地はスラウェシ島、スマトラ島、ジャワ島が知られています。国の輸出農作物のうちパーム油、天然ゴムに次いで輸出シェアを占めており、一国の産業としても貴重な作物です。

 インドネシアのカカオ農家は複数の農作物を育てながらカカオを生産する小規模農家が大半を占めています。そのため品質が向上しにくい傾向にあり、国際的にもインドネシアのカカオの多くは低品質で、低価格という印象を受けてきました。ところが近年、カカオ豆の需要が高まっていることもあり、需要を満たすためにカカオ豆の加工技術向上に取り組み、生産量を増やす計画がインドネシア国内で行われております。そのため現在では安定した品質のカカオ豆を輸出することが可能となっています。

◯カカオとは

 ここで、知っているようでいて実は詳しくは知らないカカオの主な特徴をまとめてみます。カカオの学名は「テオブロマ・カカオ」と言い、アオギリ科テオブロマ属の常緑の熱帯植物です。テオブロマは「神様の食べ物」という意味で、かつては王侯貴族といった一部の人たちだけが食することのできた貴重な食べ物でした。

 カカオの実は「カカオポッド」と呼ばれ、一見ゴツゴツとしたラグビーボールという印象を受けます。成熟時の重さは大きいもので2〜3kgにもなり、大きさもラグビーボールの倍以上にまで成長し、成熟するにつれて殻は徐々に硬くなっていきます。また、カカオポッドは熟す前は緑色をしていますが、成熟が進むにつれて黄色、オレンジ、赤、紫に変化していきます。この色の変化は収穫に適した状態かどうかを見極める指標になっています。そして、カカオポッドの中に40~50粒ある白い果肉に覆われた種子が「カカオ豆」です。カカオ豆は収穫後さまざまな工程を経てチョコレートやココアとなります。

 カカオ豆の風味は国、地域ごとに異なると言われます。さらに辿っていくと農園によっても特徴があり、最終的には豆の一粒一粒がそれぞれ個性を持っていて、私たちの口に入るチョコレートやココアの個性となって現れてきます。

 カカオの栽培と生育は基本的にほかの農作物と同じです。時を経て木が育ち、花がなり、受粉をして実をつけます。そして、この育つ環境、土壌(ワインなどでも使われる「テロワール」)、品種によって違いが生まれます。さらには、同じ種でも様々な味わいがあるので、その後の発酵や焙煎でさまざまな表情を見せてくれます。

◯カカオ豆の品種

 カカオ豆には大きく分けて「クリオロ種」、「フォラステロ種」、「トリニタリオ種」の3つの品種があります。

 「クリオロ種」は有史以前から存在し、メキシコ南部やグアテマラなどで栽培されていますが、病害虫に弱く栽培が非常に難しいとされています。独特の風味があり苦味が少ない特徴から「フレーバービーンズ」として珍重されており、生産量全体のうち3〜5%程で幻のカカオ豆とも言われています。

 アマゾン川上流域やオリノコ川流域(ベネズエラ)などが起源の「フォラステロ種」は、成長が早く病害虫に強いため比較的育てやすいとされています。現在では、ガーナやコートジボワール、ブラジルなど広範なカカオ生産地域で栽培されていて、インドネシアなど東南アジア地域でも多く栽培されていて、生産量は全体のおよそ80%を占めます。渋味と苦味が特徴の品種です。

 「トリニタリオ種」は、カリブ海のトリニダード島でクリオロ種とフォラステロ種の自然交配によって誕生しました。クリオロ種とフォラステロ種の特性を兼ね備えた育てやすく深い味わいが特徴で、生産量は全体の15~20%程を占めています。現在では中南米やマダガスカル、ベトナムなどで栽培されており、多くのチョコレートブランドから高く評価されています。

◯カカオ豆の収穫から乾燥まで

①収穫:ラグビーボールのような形をしたカカオポッドを割ると、カカオパルプと呼ばれる果肉が出てきます。この白くてぬるぬるとした手触りのカカオパルプの中にカカオ豆があります。

②発酵:発酵方法には複数あり、インドネシアではバナナの葉にカカオ豆を包んで発酵させます。バナナの葉に付着している微生物や菌を利用するわけです。発酵期間はカカオ豆の種類によっても異なりますが、おおよそ5日程度です。発酵するとカカオ豆は濃い茶色に変化し渋味や酸味が減少します。そして甘味や旨味が増し、カカオ本来の香りが生まれてきます。

③乾燥:発酵がおわったカカオ豆は天日干しにして、乾燥前の水分量60%から7%程度になるまで乾燥させます。適切に乾燥させないとカビが発生しカカオ豆をダメにしてしまうので、最後まで気を抜けません。

◯チョコレートができるまで

 原産地から日本に届いたカカオ豆は、まず不純物やカカオ豆の状態を選別します。続いて焙煎、粉砕を行い、皮などを取り除いて「カカオニブ」にします。このカカオニブをすりつぶすと、耳馴染みのある「カカオマス」(カカオ豆をペースト状にしたもの)になります。これにココアバターや砂糖、ミルクを加えることでチョコレートが完成します。

 チョコレートは、紀元前1,500~400年頃にメソアメリカ(メキシコ南部や中央アメリカを含む地域)で栄えたオルメカ人が発明したと言われています。現在に続く起源としては、16世紀にメキシコに遠征したスペインのフェルナンド・コルテス将軍が持ち帰ったことをきっかけに、スペインで飲み物としてのチョコレートが親しまれるようになり、ヨーロッパ各国に広まったことが始まりのようです。その後ようやく1800年代に入り食べるチョコレートが考案されたことで、お菓子としてのチョコレートが発展していきます。いまでは一般的に食べられているミルクチョコレートは、19世紀にスイスの菓子職人ダニエル・ペーターにより牛乳入りのチョコレートドリンクを乾燥させたものにココアバターを加える方法で作られたものが最初と言われています。

◯インドネシアのカカオ豆生産量

 Food and Agriculture Organizationによると、2022年のカカオ豆生産量はコートジボアール約223百万トン、ガーナ約111百万トンに続き、インドネシアは約67百万トンで世界第3位です。また、インドネシアからカカオを輸出している先は、マレーシア、アメリカ、インド、中国、オランダと続き、日本への輸出量は約7千トンです。これは日本のカカオ豆輸入量の10%強に過ぎません。

インドネシアのカカオ豆は供給量が多く、近年は品質も向上しているので、日本でも話題に上るようになってきました。生産地域や発酵方法などで、草や木を燻したような力強い香りだったり、酸味と果実味があるさわやかな味わいなど、個性的な特徴あるカカオ豆が現れています。これからはカカオ豆の産地を気にしてチョコレートを選んでみてはいかがでしょうか。

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