日本は資源に乏しく、企業活動に必要な原料や部材などを海外調達に頼らざるを得ない環境にあります。国際競争力を維持し高めるために必要なコストダウンのためにも海外調達の重要性は年々増していると思います。そして海外調達を考えた場合、多くは中国を中心にサプライチェーンを組み立てていることが多いのではないでしょうか。しかし、米中デカップリング、台湾有事など中国を取り巻く地政学リスクの影響が年々大きくなっています。
このような状況のなか、サプライチェーン戦略は従来の効率性優先から持続性重視へと大きく変化していて、経済的な合理性だけでなく政治や安全保障の視点を持った安定調達を念頭に幅広い視点からの判断が必要になっています。今回のブログでは、<海外調達の基礎知識から加工部品を海外で調達する際のメリット・デメリットと調達先としてのインドネシアについても>お話しします。
◯中国を取り巻く地政学リスク
米中経済のデカップリングとそれに伴うブロック経済圏の形成は、想定するリスクの中で最も重要でサプライチェーンに与える影響は計り知れません。来年の第二次トランプ政権発足によって、米中の対立を発端とする輸出入の制限や関税引き上げなどが現実味を帯びてきました。従来までの事業収益性のみならず、サプライチェーン構造にまで影響を及ぼす可能性があります。こうしたブロック経済圏に対応するサプライチェーンの見直しは避けて通ることができず、既存の調達網・製造ポートフォリオを再構築する必要に迫られるでしょう。
また、台湾有事についても中国の出方次第で結果は違ってくることはありますが、中国が台湾侵攻という実力行使に出た場合には日本と台湾との間の貿易は途絶するでしょう。世界的な電子部品の台湾依存を背景に、台湾との貿易が途絶した場合の影響は日本だけでなく世界的な規模になると思われます。
さらには「中国製造2025」という中国国内の産業振興策が進んでおり、中国の自国企業は政府による補助金交付などで優遇される一方、外資系企業には厳しい環境基準準拠の要請や現地調達の推進など各種規制が強化されています。例えば、レアアースに代表される戦略物資供給の制限が課されはじめており、多くの日系企業では中国からの調達や現地工場の操業が困難になってきています。
◯サプライチェーン強靭化への対策の現状
多くの日本企業が強靭なサプライチェーンの構築を目指して、有事には中国産原料や中国製部品に頼らなくても製造継続できることを目指していることと思います。まずは消費期限等の各種条件を睨みながら原料在庫や部品在庫の積み増しなどの対策で目の前のリスクを回避し、将来的には中国以外の調達先の選定、サプライヤーへのBCM(事業継続マネジメント)対応の要求、部品内製化、中国国外の工場新設など、時間や資金を投入してリスク自体を低減することを検討されているのではないでしょうか。
◯中国依存を脱却したサプライチェーン戦略へ
上記のように、従来の経済合理性を優先して中国に一極集中していたサプライチェーンモデルは相当リスクが高くなっていると言えます。地政学リスクが顕在化したときの重篤性を考慮して、有事には中国に依存せずに事業を継続できるだけの準備が必要となります。しかし、現時点では中国における調達・製造のすべてを他の国や地域で代替させることは現実的ではないので、リスクの高い事業から優先して対策すべきでしょう。
昨今、調達において長く培ってきた中国企業とのコネクションを持っていても、次のような困りごとが起こっているようです。
・突然の規制変更や人件費の高騰等で中国からの供給が不安定となり将来の仕入れ調達に不安がある。
・海外仕入れ先の分散化を検討しているけれど、品質や納期が不安定。
そこで中国調達に対するリスクヘッジとして、インドネシアやタイ、ベトナムなどのASEAN6が注目されはじめています。
<通商白書2023「我が国を取り巻くグローバル・バリューチェーンの強靱化」より>
この図は、経済産業省の「通商白書2023」内の「我が国を取り巻くグローバル・バリューチェーンの強靱化」というレポートの資料です。「海外展開を行う我が国企業に対して、直近10年間で調達先・販売先・直接投資先として重視してきた国・地域、今後5年間で調達先・販売先・直接投資先として重視していく国・地域についての調査」のなかの図になります。
直近10年間では調達先・販売先・直接投資先ともに中国が最も重視されていますが、その次に ASEAN6 が続いていました。そして今後5年間の調達先は中国が最も重視されているものの、ASEAN6 が大幅に上昇して中国に肉薄しています。
◯生産や調達の国内回帰または国産品への変更も
株式会社帝国データバンクは景気動向調査 2022 年 12 月調査と同時に、国内回帰・国産回帰に関する企業の動向調査として「4社に1社が「国内」「国産」へ回帰サプライチェーン混乱による調達難が最大の理由~日本国内の「生産能力」や「コスト競争力」が課題~」という調査結果を公表しています。そこでは、新型コロナウイルスの感染拡大や地政学的リスクの高まりなどを背景に、海外からの原材料・商品等の調達難および価格の高騰が続いているなか、一部の企業では生産拠点や調達先などの国内への回帰のほか、第三国へ移転または国産品への切り替えの動きが表れている、としています。
https://www.tdb-di.com/2023/01/sp20230127.pdf
調査結果としては、海外調達または輸入品の利用をしている企業のうち4割が生産拠点などを海外から国内へ回帰・多様化や国産品への変更など対策を実施/検討していて、なかでも『生産や調達の国内回帰または国産品への変更』は約4社に1社だった、と報告しています。一方で、対策を実施/検討していない企業は6割となり、そのうち半数近くは海外調達の方が安定的な調達を継続できることを理由にしていて、また3割の企業で海外調達や輸入品の方がコストを抑制できると考えていたほか、国内における人手不足を懸念する企業も多い、と書かれていました。
以上のように、国内外ともに不確実性が高まっているなか、さまざまなリスクを想定したうえで自社にとって最適な調達体制を見極めることの重要性が増しています。国内回帰だけにとどまらず、拠点や調達先を一国に限定せずに各国に上手く分散・再配置することもサプライチェーンリスクへの備えになります。
この点において、当社はメーカー機能を持つ商社として、世界情勢の変化に対応するリスクヘッジのためのセカンドオプション、チャイナプラスワンの有力候補として現地インドネシアの製品や素材などをご紹介してまいります。
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