インドネシアのバニラビーンズ

お菓子や香水などに使われる甘くて芳醇な香りが特徴のバニラですが、どんな植物でどのように加工されるのかをご存じない方が多いのではないでしょうか。インドネシアでのバニラ生産量は年間約2,800トンで、年間約4,000トンのマダガスカルについで世界第二位の生産国であり、品質や香りにおいてインドネシアのバニラは評価が上がってきております。

今回はあまり知られていない「バニラ」について、特に食感や見た目で特別感があり天然ならではの複雑な香りを楽しめる「バニラビーンズ」(アジアでは香草豆といいます)をメインにご紹介します。

◯バニラとは?

 バニラ(vanilla)は、ラン科バニラ属の常緑のツル性植物で、多肉質の草の葉状のつたは10~15メートルも伸びます。名前の由来は「小さなさや」という意味のスペイン語「vaina」からきています。原産地である中央アメリカのメキシコを征服したスペイン人が、16世紀はじめにヨーロッパに持ち帰って世界に広まりました。16世紀後半にはチョコレート製造の香味料として使用するようになりましたが、生産は人工授粉が考案される1841年までメキシコに独占されていました。バニラは中央アメリカに生息するハミングバード(ハチドリ)によって受粉して開花しますが、それ以外の地域ではこの鳥がいないので人の手で受粉しています。現在はインドネシア、マダガスカル、コモロ諸島やタヒチなど熱帯地域で栽培されています。

 

 バニラは6cmほどの白いらっぱ型の花をつけますが、1日でしぼんでしまいます。バニラの香りのイメージから花に香りがあると思われがちですが花自体に香りはなく、あの特有の香りはバニラの果実から香ってくるのです。この記憶に残る甘い香りが由来で花言葉が「永久不滅」になりました。

 利用されるのは開花の後にできる「さや」の部分です。まだ未熟な緑色の果実を収穫しますが、そのままでは青臭いにおいがするだけです。2,000種類以上と言われるアロマ成分によりあの甘く優しい魅力的な香りを作り出すためには、「キュアリング」という丁寧にゆっくり時間をかけた工程を経て成熟させる必要があります。いったん蒸して発酵・乾燥をくり返したバニラの果実は濃い茶色になり、バニラクリスタルと呼ばれる白っぽいロウ状の結晶が表面を覆ってはじめて、あの強い甘い香りを放つようになります。ここから取り出した種がバニラビーンズシードと呼ばれます。サフランに次ぐ世界で2番目に高価なスパイスと言われており、高価な天然のバニラビーンズに代わって1874年に人工のバニリンが合成されてからは合成バニリンが主流になってしまい、天然バニラビーンズのシェアはバニラ香料全体のの10%以下となっています。

 バニラビーンズは長さと鞘の太さによってサイズが分けられており、それによって価格も変わります。鞘が太い方が中のバニラビーンズも大きく香りも強いため、サイズが大きいものほど単価が高くなります。

◯バニラビーンズの種類

 世界中には110種類ものバニラが存在しますが、市場に流通するバニラビーンズはブルボン種とタヒチ種の2つの品種のみです。バニラビーンズは産地によって同じ品種でも異なった香りになります。

 ブルボン種(学名:Planifolra)は生産量世界一のマダガスカルはもちろんのこと、インドネシアでも多く栽培されており流通量が多い品種です。原産地メキシコに起源をもち、1800年代にフランスによってアフリカのレユニオン島に移植され、大規模プランテーションで栽培された経緯があります。イル・ド・ブルボン(ブルボンの島)として知られたのが名前の由来と言われています。     

 香りはマイルドな甘さが感じられるとともにフルーティさもある、まさしくバニラと思える香りがします。産地によってはチョコレートやキャラメルのような香りも感じられ、様々な産地のバーボン種を試してみるのも面白いでしょう。主な用途としては、カスタードクリームやアイスクリームなどに加えることでキャラメルのような風味を醸し出します。

 タヒチ種(学名:Thahitensis)はブルボン種よりも流通量が少ない希少種です。タヒチ種のルーツはブルボン種と他の野生種が交配して生まれたと言われています。「タヒチ」と名付けられていますが地名のタヒチと品種の名前が同じというだけで、タヒチ産のバニラだからタヒチ種と言われるわけではありません。とはいえフランス領ポリネシアのタヒチ島でも少量ではあるものの質の高いバニラビーンズが栽培されていて、希少なため高価格で取引されています。

Version 1.0.0

 香りの特徴は、濃厚なバニラらしい香りをベースにフローラルでスパイシーさも感じられる複雑な香りになります。天然バニリンの量がブルボン種に比べて少ないため、クッキーやケーキ、カスタードクリームなどを作るのに適していると言われています。さやの形状がブルボン種よりも太く平たいため、バニラビーンズが取り出しやすいという特徴もあります。

◯インドネシアのバニラビーンズ

 インドネシアでは、ブルボン種とタヒチ種の2種類とも栽培しており、世界中に輸出しています。

 バニラビーンズのグレードの基準になるサイズは、マダガスカル産が長さ16〜18cmと長めで飛白的細い形状です。インドネシア産は長さ14〜16cmと少し短いものが多いですが、太さはマダガスカル産の1.5〜2倍ほどあり、シードの量も多いのが特徴です。

 価格はインドネシア産のバニラビーンズの方がマダガスカル産よりも比較的価格がリーズナブルになっています。輸入価格(卸・小売業者の原価)としては、インドネシア産のバニラビーンズはマダガスカル産のおおよそ1/2と言われています。 

理由としては「近年、供給量が増えていること」「日本までの輸入ルートが近いこと」「栽培手法の発展により安定的な供給が可能になったこと」の3つがあります。既にアメリカやヨーロッパ、中国などでは、マダガスカル産よりもインドネシア産の方がメジャーになりつつあり、この傾向は今後も続くものと予想されています。

インドネシアではバニラビーンズの質を高めつつ、供給量を増やすことに成功しています。バニラビーンズは非常に労働集約的な農産物で、労働コストが大きく価格に影響しています。そうしたなかでもインドネシアでは、バニラビーンズの受粉作業やキュアリングといった手間暇のかかる作業を簡素化する研究も進んでおり、将来的には最もメジャーなバニラビーンズの生産地になると予想されています。

バニラビーンズには精神を落ち着かせる効果があることが知られています。甘い香りの中に潛むリラクゼーションアロマで、ゆっくりとコーヒータイムを過ごしてはいかがでしょうか。

コメント

この記事へのコメントはありません。

関連記事